ピンクの炎 第３回『君は「しのざきさとみ」を知っているか？』女優 しのざきさとみさんに聞く その１「秘密のヌード撮影とピンク映画デビュー」
目立つことが嫌いという彼女は、敢えて主役を断り、脇役に徹して、メディアへの露出を避けてきた。そのため、その素顔はあまり知られていないが、そのピンク映画界への貢献度は大きく、「隠れたピンク映画の女王」の１人と呼んでも過言では無いのではないだろうか。今回は、そんなしのざきさんに、じっくり話を聞いた。
映画監督 工藤雅典
その１「秘密のヌード撮影とピンク映画デビュー」
工藤：今日はよろしくお願いします。
しのざき：よろしくお願いします。
工藤：まず、しのざきさん、「しのざきさとみ」は芸名ですよね？
しのざき：はい。
工藤：何度か、芸名が変わっているようですが、デビューした時の芸名は？
しのざき：さあ、何だったのかしら（笑）。仕事した会社とかが、勝手につけたんだと思います。自分では、分からないんです。
工藤：気づいたときは「しのざき」だったんですか？
しのざき：そうです。「しのざきさとみ」も自分でつけたんじゃなくて、仕事でつけられたんですけど。
工藤：そうなんですか！徐々にそのへんも、詳しく聞いていきたいと思いますが、しのざきさん、お生まれは？
しのざき：東京です。
工藤：東京のどのへんですか？
しのざき：下町です。
工藤：少女時代は、どんなお子さんでしたか？
しのざき：地味でした、人見知りで…。
工藤：どちらというと目立たない子ですか？
しのざき：そうですね。全然目立っていなかったです。
工藤：女優に憧れとかはあったんですか？
しのざき：全然ありません（笑）。
工藤：将来は、何かになりたいとかありました？
しのざき：普通に結婚して、普通にお母さんになると思っていました。
工藤：それにしては、随分、波瀾万丈の人生になっちゃいましたね（笑）。何かの職業への憧れとかは無かったんですか？
しのざき：スチュワーデスさんとか（笑）。漠然とした憧れですけど…。
工藤：何か習い事とかは？
しのざき：日本舞踊を。
工藤：日本舞踊はお好きだったんですか？
しのざき：いいえ、母にやらされて（笑）。
工藤：お母さんの言う事を素直に聞く、大人しい少女だったわけですね。お母さんには逆らえなかったんですか？
しのざき：逆らえません。それは、今もです。母は怖いです（笑）。
工藤：しのざきさんのデビューはグラビアだったと聞いていますが、その経緯は？
しのざき：日本舞踊のからみで、懇意の呉服屋さんがあったんですよ。和服を着て、そこのカレンダーのモデルをやったのが最初です。その時のデザイナーさんに、あるエステサロンのモデルをやらないかと誘われたんです。顔も出ないし、ただ水着を来て、マッサージでモミモミされるだけだと。ギャラもけっこう良かったんです。その時のカメラマンさんがグラビアの人で、それがきっかけでグラビアをやったんです。
工藤：それも、水着ですか？
しのざき：それはヌードでした。
工藤：普通の大人しい女子が、水着からいきなりヌードと言うのは随分大きなジャンプですね。どうしちゃったんですか？
しのざき：さあ、あまり覚えていないんです。多分口説かれたんだと思います。カメラマンの口が上手かったのでは？（笑）。「青春の１ページだよ」とか、そんな感じだと思います。それで、裸に。
工藤：それが１９８０年代の初頭、しのざきさんが二十歳くらいの頃ですね。それは、雑誌に載ったんですか？
しのざき：ええ。
工藤：厳しい家だったのに大丈夫だったんですか？
しのざき：もちろん秘密にしてました。その後、映画に出演してからもずっと秘密でした。
工藤：ええっ！バレなかったんですか？
しのざき：バレました！ずっと後ですけど、週刊現代に載った時かな。親戚の叔母が見つけて、母に連絡してきて。大変でしたね。母にひどく怒られて。勘当される寸前というか、しばらく、家から一歩も出してもらえませんでした。
工藤：ピンク映画のデビューは１９８４年ですね。資料によると、１９８４年に、いきなり４本出演しているようですが、最初は大蔵映画で西沢弘己監督の『連続淫獣暴行』ですね。これに出演した経緯は？
しのざき：さあ、どうだったのかしら。あまりよく覚えていないんです。普通の週刊誌もやってたんですけど、劇画雑誌のグラビアもやっていたので、その関係で、カメラマンか編集の人から出演を頼まれたんだと思います。
工藤：劇画雑誌というと成人向けのですね。
しのざき：そうそう、駅の売店とかで売ってたやつ。実は、デビューについては、色んな所で聞かれて、ピンク映画の関係者の間では、池島さん（池島ゆたか監督）が深町組に紹介してくれたのがデビューという事になってるんですよ。
工藤：深町組の最初は１９８５年の『下半身快感マッサージ』（新東宝）ですね。名義は、深町章監督の別名の稲生実監督ですが。池島さんも出演してますね。
しのざき：そう、深町組はすごく好きだったし印象深いです。この後直ぐ撮った『痴漢電車 いけないこの指』（新東宝）の渡辺元嗣監督も深町組の助監督でした。
工藤：初出演した時、ピンク映画の現場はどういう風に感じました？
しのざき：嫌だったですね（苦笑）。
工藤：嫌だった？
しのざき：嫌だったとしか、言いようがないです。だって、知らない人に体を触られるし…、モデルだと見られるだけじゃないですか。
工藤：ええ。
しのざき：それと、やっぱり芝居が嫌でしたね。台詞が言えなくて。
工藤：ああ、台詞が。芝居には苦労なさった？
しのざき：台本に書いている事が言えなかったです。例えば、「好きよ」とか、何でこんな事言うの？と。
工藤：最初に台本を読んだ時、どう思いました？
しのざき：とても、私には無理と…。電話をして、「出来ません」と言ったんですけど、「やってくれなきゃ困る」と言われて。断りきれず…。結局、やりました。
工藤：その時は、マネージャーがいたんですか？それともフリーで？
しのざき：フリーです。
工藤：制作側は、キャストが決まったら、インに向けて準備してるでしょうから、降りられたら困るでしょうけど。若い女性にとっては、大変な決断ですよね。
しのざき：最初の一本限りと思っていたんですけど、意志が弱いのか、頼まれたら嫌と言えなくて、その後、続けて何本かやる事になったんです。
その２「初めての前貼り。新人女優の頃」に続く